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臨床心理士第1種指定大学院 現役院生による座談会

〜社会人から転身した大学院生〜


2003年12月21日(日)、大学院修士課程(臨床心理士1種指定校)在籍中の大学院生を招き、学内生を対象とした座談会が開催されました。
この時の記録はメールマガジンで配信し400名以上の方がご講読されましたが、ご要望が多かったため、ホームページにも再録することにいたしました。

ゲストにお招きした坂本雅昭さん(仮名)は、某国立大学修士1年に在学中(当時)。
金融機関に勤務したのち退職、大学院に進学して臨床心理学の研究を行っています。

大学院受験の体験談から、大学院入学後の生活、そして切実なお金の問題に至るまで、ざっくばらんにお話いただきました。特に社会人で大学院進学を目指す方にとっては参考になる内容です。

自己紹介
大学院生活
受験の経験
社会人からの転身
質疑応答
最後に

自己紹介
皆さんこんにちは。今日は社会人の方もいらっしゃるようですが、私も銀行に10年間弱勤めた後に大学院に進みました。1年目は仕事を続けながら勉強し、3校ほど受験したのですが、全て落ちました。そこで、仕事を辞めてバイトをしながら受験勉強をして、2年目に大学院に受かったわけです。バイトは、昼ごろから夜まで働いていたので、結局、勤務時間は勤めていた頃と代わらない状態だったのですが(笑)。

今日これからお話するのは、自分の経験に基づいた話ですので、これが一般的であるとは限りません。あくまでも一意見として聞いてください。
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大学院生活
(1) 大学院での講義内容
大学院での授業は、臨床心理学、発達心理学、心理査定、面接基礎実習など多岐にわたります。これらに加えて、私の院は教育色も強いので教育関係の授業もあります。
講義科目は大学院によってさまざまですが指定校なら臨床心理士の必要単位に合わせて授業が組まれています。

講義内容は先生によって大きく違いますし、昼間と夜とではさらに違いがあります。
夜は社会人が多いためか、どちらかというと基礎的な内容を講義するといった形でしょうか。でも、全般的には、講義形式よりは、対話をしながら考えを深めていくディスカッション形式の授業が主といってよいと思います。
ですから基礎的なことは自分で勉強するというのが前提です。
そういった意味では、皆さんも今受験勉強をしていると思いますが、今やっている勉強がそのまま大学院に入っても活かせると思います。ですから、受験勉強を辛いと思わずに、今の勉強を大切にしてください。

通常の授業のほかに、臨床心理士の1種指定大学院では、必ず実習の授業があります。
うちでも2年生から始まりますが、1年生はまず学生同士でロールプレイなどを行っています。さすがに、いきなり実習は無理ですから。

臨床心理士になるために指定されている単位数は多く、修了単位の倍(60単位)くらいが必要です。
特に1年生のときは科目数が多く大変です。2年生になると実習が入るので、授業時間数は少なくなりますが、忙しいです。
でも、自分の勉強のためにできるだけたくさん授業をとっています。

授業が入っていない時間帯はレポート作成かアルバイトです。
レポートは毎週20枚の授業と10枚の授業と数枚の授業があるから……35枚前後ですね! 
毎週35枚前後レポート書かなければいけません。なので週に2日は徹夜してます。週に最低5冊は専門書を読まなければいけませんしね。

それから、夜間の授業もとっているので、一日のうち授業は昼にも夜にもあることになります。
夕方授業が終わったら急いでおにぎりだけ食べて、そのまま、また夜の授業へ、という感じです。
土日には集中講義や勉強会があります。だから、月によっては休みが全然ないこともあり、とても忙しいです。授業がなくても修士論文の準備や資料集めなどがありますし。体力勝負ですね。
(2)実習
まず学内実習は、学内にある相談所で先生の指導の下に行います。
学校の相談所は子どもの相談が多いのではないでしょうか。
だから、子どもに対するプレイセラピーが多いですね。指導する先生によってやり方がいろいろなので、指導してもらう先生を選ぶことは大事です。

学外実習は、病院やデイケアのクリニックでの実習です。
1年間、週1回、丸1日をそこで過ごすわけです。実習内容は、病院などの事情によって多少違います。インテーク面接をさせてもらえるところもあれば、見学が主のところもあるようです。

ところで、病院で統合失調症の患者さんと接することは重要だと思います。
ちまたに溢れている心理療法のイメージは、ロジャースやフロイト流の面接をイメージするため、統合失調症に対する心理療法は、一般的なイメージにないかもしれません。
しかし、実際カウンセリングルームや相談所にどのような患者さんが来るかわかりませんので、病院でなくても統合失調症の患者さんと接する機会は当然あると思います。
みなさんが統合失調症の患者さんに対して心理療法を行うかどうかは別としても、患者さんがこられたときに少なくとも適切な機関に紹介するためにも、確りとしたアセスメントをできるようにしておかなければいけませんから。

実習以外では、先生から個人的に指導をうけることがあります。
先生方は、多くの学会に所属していますし、他大学の知り合いも多いなど、情報量が非常に多いので、できる限り接して多くのものを吸収したほうがよいと思います。
(3)研究
研究と臨床の両方やるのはとても大変です。
特に社会人だと統計が高いハードルに……。本を読んで理解しても、SPSSなどを実際に動かすのは難しいですね。自分も今苦しんでいます。

大学院は基本的に研究の場であるので、研究は大事です。研究をしているからこそ臨床も活きてくるのだと実感します。
臨床活動をしていく際、研究をおろそかにすると、目の前の現象だけに目を奪われて、客観的な見方ができなくなって知識が偏ってきます。そうすると、良い臨床家にもなれないと思います。

皆さんも入試の時に研究計画書を提出すると思いますが、修士論文はあのテーマから変わってもいいわけです。大学院の先生も、入試の時の研究テーマがそのまま修士論文になるなんて思っていません。
大切なのは、どれだけしっかり研究手法を押さえられているか、先行研究は調べられているか、全体が論理的にまとまっているか、タイトルから研究内容が明確にわかるか、など、あくまで大学院で研究していく上での基礎的な能力が試されているのです。なので、研究計画も臨床と関連していることを認識して作成して下さい。

因みに、研究計画書については、書かれた内容が実際に研究できるかどうかも重要ですね。どう見ても被験者が集まりそうもない研究計画を作ってしまう人も多々いるようですから。
(4)経済

次に経済的な問題ですが、大学院(修士)に納めるお金は、国立で半期26万円、年間で50万円ちょっとといったところです。
もちろん私立だと施設費等々でもっと高いです。実家から通うのであればいいのですが、自分は1人暮らしなのできついですね。家賃とかがあると……(苦笑)。

でも、院生は奨学金を受け取るハードルは低めと聞きました。
周りでも、育英会に申請した人は大体通っていますし、家が裕福な人でも奨学金をもらっています。育英会の1種で月額8万7千円で、2種だと最高13万円(金額か4段階くらいに設定されている)だったかな?。

それから、学校や先生の紹介でアルバイトができることもあります。
相談室の手伝いとか。他には、家庭教師とか子どもたちの世話をするようなバイトを紹介してもらえることもあります。
ただ、大学院生活は忙しいので、アルバイトのできる時間は限られますが。私自身は、研究だけだと気分も塞ぎますし、生活のこともあるので、なんとかやっています。

アルバイトも、臨床関係のことをやれば、勉強させてもらいながらお金ももらえるという、一石二鳥になります。知り合いには、デイケアでバイトしている人もいます。

バイトを全くやっていない人もいます。研究に集中するのも良いですし、バイトやボランティアでいろいろな経験を積むのも良い。その人の事情に合わせていけばいいと思います。

(5)臨床の実際
臨床心理学のイメージとして、どのようなものをお持ちですか?
臨床心理学イコール心理療法だと思うかもしれません。それは、ご存知のとおり今までの日本の臨床心理学は精神療法の輸入だったからだと思います。

しかし、海外では、心理療法イコール臨床心理学とはなっていません。様々な症状のデータや治療方法、また基礎心理の研究成果を全部含めて体系づけられています。
これは日本にはないことです。心理臨床も、もちろん臨床心理学の一部ではありますが、それには基礎研究など土台がきちんとあるということですね。そのあたりは、欧米では異常心理学と呼ばれています。

なので、日本もこれからは、事例だけを紹介するのではなく、きちんと臨床のデータや基礎研究をつなぎあわせて、科学的なデータに基づいた「日本の臨床心理学」という枠組みを作っていく必要があると思います。
少なくとも臨床の場面では、これからは、きちんとアセスメントを行っていかなければならないと思います。
アセスメントをしっかり行うということは、心理療法の効果を科学的に検証するということにもつながりますから。つまり、エビデンス・ベイスド(evidence based)ということですね。

精神科医との関わりも大切でしょう。医師は症状を横断的にていきますが、臨床心理士は、生育暦などから患者を発達的にとらえることができます。
そこは臨床心理士の大切な役割でしょう。また、バイオ、サイコロジー、ソーシャル、の3点で患者を理解することが言われていますが、子どもなどにおいて、学校、社会、家庭などさまざまなつながりを見渡せるのは臨床心理士であり、そこも大切な役割でしょう。

今後、いろいろな面で、臨床心理士の役割が多くなるでしょうし、それに応えていくことができれば、臨床心理士の地位も向上するでしょう。
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受験の経験
(1) 勉強時間や勉強方法
僕は1年目の受験では予備校に通っていたからいいのですが、2年目は独学だったので、自前で情報を仕入れなければいけませんでした。

基礎的なものを押えたあとは、情報は新しいものに限ります。
本も新しいものを読む。僕の場合は、本屋に行って、できるだけ最近出版された本を読み、今、臨床心理学の世界ではどのようなことが話題になっているのかなどを知識として吸収するようにしました。
それから、受験校が教育系の学校だったので、心理学だけでなく教育関係の本も読みました。

勉強は、ご飯を作る時間ももったいないくらいの勢いでやりました。
読んでは書くの連続。でも、集中してやれば1日4時間ぐらいの勉強でもいいと思います。というか、バイトもあったので、それくらいしか取れませんでした。
自分は心理学科の出身ではありませんでしたが、なんとかできました。やればできます。
(2) 面接の経験
面接では、志望動機と研究計画について聞かれました。
あとは、口頭試問でしたね。他の人は「怖かったー」「いじめられたー」なんて言ってましたけど、私は開きなおった余裕のせいか和やかな雰囲気でのりきりました。

社会人の場合、面接の時に動機をしっかり言えると武器になります。
また、精神的にも太い人がいいらしいです。この点、女は強い(笑)。今の学年では、ほとんどが女性で、僕も男1人で頑張っています。まあ、嬉しいやら悲しいやら……(笑)。

学部から上がってきた現役生は、モラトリアムで来られるのが一番嫌われるみたいです。しっかりとした目標を持ってください。

面接では、一見して、大学院や臨床でやっていくには難しい人を見極めるだけですから、怖れる必要はありません。
逆に、ペーパーテストの点数が低い人が、面接で良かったからといって受かるということはありません。あくまで合格の基準はテストの点数ということです。
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社会人からの転身
(1) 臨床に携わる大学院生に求められること
臨床心理学を勉強すると、自分自身の内省が深まります。
その時に、自分自身の問題から逃げず、向き合うことが大切です。自分の問題を解決しないまでも、自分の問題を言語化して認識すること。

カウンセリングは、自ずとクライエントの問題を聞くにつれて、自分自身の問題と向き合うことにもなりますから、クライエントに振り回されないためにも、自分の問題を向き合う強さを持たなければなりません。
反対に、自分の問題を認識すると他の人のことも分かるようになると思います。

そうそう、情報が少ない中で、どんな先生につくべきかは重要なことです。
社会人だと、とりわけ大学院の情報はないわけですから、行き当たりばったりになってくるかもしれません。僕の場合は、先生と話してみるとウマが合いました。実は、僕は受験のときに研究室訪問はしなかったんです。
最初から「この先生しかいない!!」というのではなく、院に入ってから考えればよいと思っていたから。どうせ入ったら、それまでの自分の考えは変わるものですし。

逆に大学院の研究をするのに、「これしかない!!」という思いこみがあったら、それは間違いだと思っていい。今の時点で知ることができるのは、臨床のごく一部ですから。

また、勉強するの主体は自分なのだから、どの院に入っても自分がしっかり勉強すればそれで良いという考えもありました。
自分の思い入れが強すぎると、院に入っても、そこで先生と上手く行かなければ何にもなりません。
どのようなところにいても、自分がしっかり勉強するというスタンスでいれば、必ず自分の実になると思います。
(2)学部生との視点の違い
社会人と学部からストレートで上がってきた人との違いですが、社会経験があると人間的にこなれているといえるでしょう。
一方で、心理出身の学部生と比べると心理学の知識の面では弱い。
だから、僕は、学部卒の女性達と何でもよく話して、いろいろなことを吸収しようとしています。

社会人と学生との間で、変な壁ができることもあるみたいですが、それはもったいないと思います。
臨床心理士は人を扱うので、本を読んでいるだけでは分からないことがたくさんあります。
できるだけ、いろいろな人と話すことをすすめます。なにせ、臨床心理学は対話の学問ともいえますから。

臨床心理をやる人はシャイな人が多いですが(笑)、それを乗り越えてください!
(3) モチベーション
大学院に入ってからは、モチベーションの維持が大変です。
新しいことを吸収しなければならないので、ほんと大変。それに、院が終わったら臨床心理士の試験がありますから、ずっとモチベーションを維持しつづけなければならないのです。

そのためには、自分がどうしてこの道に進みたいと思ったのかを、何かあったときには振り返ってみることがたいせつです。
例えば、人のために何かをしなければ……、など。自分の場合は、会社を辞めてまでやっているので、それだけ思い入れは強いです。

学部生も同じかもしれません。院を出るとつぶしがきかなくなるから、ある意味、自分を追い込んでいますよね(笑)。

まあ、いずれにせよ人生賭けてやるわけですから、それだけ最初に抱く動機が重要になります。
自分の場合も、そうした強い思いがあるからこそ、辛くても続けていけるのです。

みなさんの「初期衝動」はどうでしょうか。僕からいわせると、それは正しいはずです。臨床に進もうと思い立った、その気持ちを大切にして下さい。
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質疑応答
(1)仕事と勉強の両立はできますか?
質問:仕事を続けながら夜間で学ぶこと(2足のわらじ)は厳しい?

応え:それは厳しいけれど、働きながら勉強している人もいるので、できないことはありません。その分がんばらなけらばいけないのはもちろんだけれど。
僕の場合も仕事上、年齢的にも重要な仕事を任せられる頃だったのでだいぶ迷いましたし、決断するのに時間もかかりました。後悔しないためにもしっかりと悩むことですね。
(2)仕事を退職して進学するべきか迷っています。
質問:仕事を辞めて進学しようかと思っていますが、職場に恩義を感じているので退職するのを迷っています。

応え:そういう時は、自分の本当の気持ちを大切にしするのがいいのではないでしょうか?。
私は、仕事において自分の代わりの人は案外いるものだと思います。逆に、代わりがいない組織というのは、組織として問題があると思います。
(3)自分と同じ職業の人はいるでしょうか?
質問:私は製薬会社に勤めているのですが、そういう学生はいますか?

応え:自分の知っている限りではいません。先ほども話しましたが、薬とセラピーは両方重要ですので、臨床心理学を学ぶにも薬の知識は欠かせない。避けては通れないといっても良いでしょう。
ですから、薬学出身というのは貴重な人材かもしれませんね。
(4)海外留学についてどう思いますか?
質問:将来、日本で臨床をやるなら、日本の院を出ていないとだめでしょうか?
アメリカで学ぶのはどう思いますか?

応え:アメリカで学ぶのもいいと思いますよ。逆に、アメリカの方が進んでいますから。
ただ、臨床をやる場合は、言葉の微妙なニュアンスなどがハードルになるかもしれませんね。
でも、日本で勉強した後に海外で勉強している人もいるので、先々考えても良いかもしれません。
(5)海外より日本のほうが進んでいる分野って?
質問:海外より日本のほうが進んでいる分野ってあるんですか?

応え:森田療法(一同、笑)。日本のほうが進んでいるものって、ほとんどないのではないでしょうか。
多くは輸入物ですから。個人的に言うと、日本は、まだアンパン(海外のものと日本のものをうまく組み合わせて、独自のものを作ること)を作っている段階ですから、それほど世界的に進んだものは思いつかないです。
強いて言えば、引きこもりは日本に多いので、それは日本の研究が進んでいるかも知れませんね。最近、海外でも引きこもりと似た現象が出てきているともちらほら聞いていますし。
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最後に
大学院に行っている人は、諦めなかった人です。特別に頭が良かったわけではありません。
僕も、諦めてたら、今ごろ会社勤めをしてたでしょう。僕の知っている人でも、一度大学院に落ちて、諦めずにまたチャレンジしている人がいます。
そういう気持ちがあれば、1年や2年の回り道は無駄ではありません。

それから、自分に対して正直であること、自分との対話を大事にしてください。
自分を知ることは苦しいことですが、それを通してこそ、ほんとうにやりたいことや、自分の進む方向が見えてくるものです。

そして、初期衝動を大切にして、できる限りまで頑張ること。
本当にダメな時はダメなのですが、でも本当にもうダメだと思えることのできる地点に行くまでは、とことん頑張らないと。そうして始めて、次の課題や本当に大切なことを認識できるようになるんです。
チャレンジすること、し続けることを大切にしてください。
 

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